フランス研修 -ラ シャピートル- シュッド・ウエスト地方

2023年6月下旬。曇り空、時々小雨。

トゥールーズというフランス第4都市の街から、シャピートルの畑があるガイヤック北部を目指し高速道路を走っていく。1時間程したところで下道に降りると、そこはライ麦畑とトウモロコシ畑が広がる牧歌的な情景が広がっていた。黄色の稲穂をつけた麦や青々としたトウモ ロコシの葉が風に揺られ気持ち良さそうになびいている。車に抜ける風も心地良い。家々はまばらにある程度で葡萄畑は見当たらない。さらに車を走らせるととても可愛らしい村に辿り着いた。アンデルセンのおとぎ話に出てきそうな小さな村。ここかなと思ったが、マップが 示す目的地はまだこの先のよう。村を抜け細い道を進んでいく。

目的地が差す場所には1件の家がぽつんと建ってい た。小さな庭には黄色とピンク色のパラソル、その下にはレモン柄のクロスがひかれたテーブルと椅子が並んでいる。すると遠くからこちらを見て手を振る男性の姿が。グレゴワールだ!とすぐに分かった。栗毛色の無造 作な髪にたっぷりと蓄えた髭。細身で長身の体躯。私達 はフランス式の挨拶を交わし、さっき見た庭のテーブルへ案内された。そこに用意されていたのは、彼、ル シャ ピートルのいくつかのワイン。どのワインも繊細で美しい酸を感じる。その中でもファーストヴィンテージの『ル アンダ 2018年』はとても美味しかった。

   

彼の白ワインを飲むと、ハッサクや柑橘のソルベが浮かんでくる。そういった清々しい軽快な甘酸っぱさを感じる。彼がメロンやシャルキュトリ、畑で取れたというオリーブを出してくれた。そのオリーブはちょっと面白くて、瓶にオリーブの実を入れて少し放置しておいただけだという(!)。それなのに、発酵していて、カカオの味がする何とも不思議で美味しい一品だった。グ レゴワールにどうしてこんな風になるの?と尋ねてみ たが、本人も分からないと言って笑っていた。ワインを手におつまみをいただく。この地方の土着品種の葡萄の話や、彼のこれまでの人生について話を聞く。伸びっぱなしの髪や髭のワイルドな見た目に、思慮深く話をする姿や眼差しは学者を思わすようで彼の中にあ る両面のバランスが面白く興味深い。何を聞いても穏やかに誠実に答えてくれた。話の途中で彼がふとこう 言った。「ワインは素晴らしいものだけど人生ではないよ。自分の人生は自分の人生。ワイン造りはワイン造り。僕は両方のバランスを上手くとっていたい。」 そのセリフを聞いて、私は少し意外に思った。ヴィ ニュロンは人生=ワインのイメージがあったから。しかもグレゴワールの様に素晴らしいワインの造る人であれば尚更に。自分のほとんどの時間を畑で過ごし、葡萄のことを考え、その積み重なりの日々が人生となっていくような。そんな時間や人柄も含めて、その人のワインとなっていくのかなと考えることがあっ た。

グレゴワールはブルターニュで生まれ、18歳の時に料理人の道へ進んだ。その後、パリで演劇を学びながら働いた先がワインバーだった。そこで出 会ったワイン達が、彼をワイン造りの世界に導く。 ワイン造りを学ぶ為にいくつかドメーヌで研修を積み、その中でも長く働き、最も影響を受けた人物がジュラ・アルボアのドメーヌ ドゥ ラ トゥルネルだった。彼のワインに感じるどこかジュラっぽい酒質はここから来ているのかもしれない。ー パスカ ル・クレレ。ラ・トゥルネルの当主であり、グレゴ ワールが独立をするときに背中を押してくれた師は 2021年にこの世を去った。若くして突然の死だったという。ジュラを代表する生産者の一人であり、 個人的に深い繋がりを持っていたグレゴワールにとってパスカルの死はどれだけ大きなショックだっただろうか。さらにその年は畑の葡萄が全滅してしまうという出来事が重なった。この二つの出来事が同じ年に起こり、とても苦しい時間を過ごしたと彼は話した。そんな経験を聞くと、彼が先に呟いたことが理解できる気がした。そして、彼が目の前で今笑っていること、その穏やかな雰囲気から、彼の心が当時より少しは癒されているのかなと思い、そのことをとても嬉しく感じた。その後はグレゴワールお手製のキッシュとサラダ、ソーセージなどをいただき、チーズとパン、デザートには瓶に入った手作りプリンとコーヒーをいただいた。

その後は行きに車で通りがかった可愛らしい村の 方に向かった。そこから少し離れたところにグレゴ ワールの畑はある。周りに他の畑はなく、あるのは いくつか点在する彼の畑だけ。ほとんど平地かなだらかな丘に畑はあり、現在は全体で4ヘクタール程になるそう。除草はしないので畑にはたくさんのオレ ガノやラベンダーなどのハーブや草花が咲き、カタツムリもたくさん見つけた。畑にはコケットという名 前の馬(牛のように大きい!)とコケットの赤ちゃん馬、それにロバが2頭一緒に暮らしている。私たち が近寄っていくと側に来てくれとても人懐こい。いくつかある彼の畑の中でも、とりわけ興味深く思っ た畑があった。その畑は畑のこちら側と向こう側とで景色が全然違っていて、その距離80メートルも離 れていないというのに、一方は砕けた岩がごろごろ転がるような乾いた土地の印象、反対側は栗の木や 植物が育つ青々した景色が広がっていた。聞けば、石灰質土壌と酸性土壌がごく近い距離に隣り合わせ しているという。その中間に葡萄畑があるので、同じ畑でも両サイドで葉の色付きも味わいも変わって くるそう。

   

畑見学の後はカーヴに案内してもらう。石造の味わいのあるカーヴだった。ステンレス、ファイバー、樽、アンフォラから熟成中のワインをそれぞれ試飲させてもらう。現在彼はアンフォラでの熟成に興味があるようだ。どれもシャピートルらしい綺麗で透明感あり伸びを感じるようなワインだった。素直にとっても美味しくて 微笑んでしまうような味わい。彼の白ワインも素晴らしいが、個人的には赤ワイン(黒ブドウと白ブドウのアッサンブラージュ)を是非皆さんに味わっていただきたいと思う。透明感がありながら深みと品を感じる魅力的なワインだ。
シュッド・ウエストは、元々トウモロコシや穀物の農業が盛んでワイン造りにおいては高く評価がされていな かった土地だと聞くが、彼のワインは本当に素晴らしいと思う。これからグレゴワールはどんなワインを造っていくのだろう。人の話に丁寧に耳を傾ける誠実な彼の眼差し、馬たちを見つめる優しい眼差し、困難があっ てもワイン造りに挑戦し続け、未来を語る力強い眼差し。そのどの瞳も今も心に残っている。ガイヤックの外れ でワイン造りに励む彼の素晴らしいワインを皆さんと共有できれば嬉しいです。じんわり沁み入るような彼の ワインは私たちの癒しとなり、エネルギーとなり、素晴らしい時間を与えてくれる、そんな風に思っています:)